2009年10月24日土曜日

Webデザイン50の原則

Design 50

Webデザイン50の原則
発行:ソフトバンククリエイティブ



狭義のデザイン

インターネットで「デザイン」という言葉を検索すると、視覚表現や設計などに関連した情報が上位に表示されますが、人によって言葉の捉え方はさまざまです。「グラフィック」をイメージする人もいれば、「ファッション」や「インテリア」を思い浮かべる人もいます。デザインという言葉が付く分野を確認したいなら、デザイン学校の案内パンフレットやウェブサイトを閲覧してみると、よくわかります。ざっと、列挙してみると、商業デザイン(グラフィック、エディトリアル、パッケージ、ゲーム、ウェブなど)、服飾デザイン(ファッション、テキスタイルなど)、工業デザイン(プロダクト、インダストリアルなど)、建築デザイン(スペース、インテリア、構造など)、環境デザイン、情報デザインなどがあります。デザインの仕事に携わっていない人でも、設計したり、モノを作ったり、情報を伝えるための活動だということが理解できると思います。辞典で調べると、意匠、設計、図案という説明が載っていますが、一般的な捉え方と概ね一致します。「商品」、「製品」、「作品」に関わるすべての行いがデザインなのかもしれません。

広義のデザイン

さて、前述した内容を狭義のデザインとするなら、広義のデザインにはどのようなものがあるのでしょう。たとえば、「デザイン思考(デザイン・シンキング)」や「デザイン・マネジメント」、「デザイン経営」などがあります。抽象的な言葉なので、イメージしにくいと思いますが、書店のビジネス・経営に関するコーナーに行くと、解説本を見つけることができます。簡単に説明すると、デザイン思考というのは「人々が生活を営むなかで何を必要としているのか、商品・製品・サービスに対してどのような感情を抱くのか」について観察、分析し、着想、観念化のプロセスを経て、プロジェクトを成功させるための手法および考え方のことです。言葉を並べると難解ですが、要は人間の行動に興味を持ち、嗜好を見つめ、(自分の感性で)ニーズと技術を取り持つことです。デザイン思考の持ち主というのは、決して特別な人ではなく、グラフィックデザイナーの中にもいるし、建築家の中にもいます。

「デザイン」を俯瞰して見てほしい

さらに抽象度を上げていくと「ライフデザイン」とか「人生デザイン」という領域まで広がります。デザインという言葉には「設計」という意味がありますが、まさに自分の人生を設計していくことです(「生きていくためのデザイン」と言ってもよいでしょう)。では、グラフィックデザインと人生デザインはどう関係するのでしょう。たとえば、「フレンチブルドック」を俯瞰すると、フレンチブルドックは「犬」、そして犬は「動物」という順序で情報空間が広がっていきます。同様に、「グラフィックデザイナー」は「デザイン思考」を持つ人(デザイナー)であり、「人生を設計」している人(メタデザイナー)ということになります。この関係を抽象度ではなく、同一の領域で語ってしまうと、とても理解しづらくなってしまいます。かっこいい絵を描くことと、人間中心のデザインを考えることは、同じ空間で論ずることができないのです。

デザイン思考を持ったウェブデザイナーになる

デザインのプロジェクトには、さまざまな人が参加し、協業していますが、全員が同じ立場で携わっているのではありません。必ず、役割分担があり、職域が存在しています。ウェブデザインであれば、サイト構造を考える人、ビジュアルデザインをする人、コーディングをする人など、分業で進められる効率化されたプロジェクトが大半です。大規模な仕事ほど、職域は明確になり、各々のプロセスワークが顕著になっていきます。ビジュアルデザインをする人は、コーディングについてほとんど知らないという(逆の言い方をするなら「知らなくても大きな問題にはならない」という)スキルの分断があります。小さなプロジェクトでは、サイト構造からビジュアルデザイン、コーディングまでを一人でやってしまうこともありますが、どの領域もパーフェクトにこなすのは至難の業です。多くの場合、得意不得意によってアウトプットの品質に影響を与えます。いずれにしても、重要になってくるのは、俯瞰してものごとを見ることができるかどうかです。前述したとおり、
抽象化していけば自分のやっている仕事がどんどんシンプルになっていきます。「ウェブデザイン」は「商業デザイン」である、そして「商業デザイン」は「デザイン」である、という大きな視点で物事を見ていくのです。すると、今まで視界に入っていなかったものが、見えてきます。デザイン思考を持つウェブデザイナーというのは、自分の仕事を常に俯瞰できる人だと捉えることができます。

デザインに関するインスピレーションの本

本書は、解説書やテクニック本ではなく、どちらかといえばデザインについてのヒント集のような構成になっています。新しいアイデアを出したいときや、企画で煮詰まったとき、どうしても意図したとおりのデザインにならないときなど、「何かヒントが欲しい!」という場面で役立つ、創作のトリガーになるような50のテーマを集めました。文字、色、構成、形、レイアウトの5章×10項目で構成されています。ウェブデザインを広い視点で捉え、他分野の考え方や法則などを取り込んで、より良いデザインを実践できるように一つひとつ組み立てていますので、机の片隅にでも置いていただき、日々のデザインワークに活用していただけたら幸いです。

2009年10月
境祐司